家族が重荷に感じるあなたに… 中井久夫著『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫

(1)親との関係を見直す本

  もし、あなたが、今、家族の重苦しさに耐えかねているなら、この本(中井久夫著『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫)は、あなたの肩の荷を降ろしてくれるでしょう。

 もしかしたら、あなたは、今、浪人生かもしれないし、ぶらぶらしているニートかもしれないし、喘息の人かもしれないし、統合失調症の人かもしれない。本書の著者は言います。そんな、一見、家族の中で問題児と見られている人、問題を抱えて苦しむ人が、実はバラバラな家族をまとめようとして、大変な役目を引き受けていることが多い、と。そして、普通、子は親に甘えるが、実は親も子に甘えることが多い。親は、子に甘えていることに無自覚で、病的な場合も多い、と。この本のタイトルに興味をもった、あなたは、自立の時期を迎えて、そんな親との関係を見直したくなっているのかもしれません。

 親子は、いつまでも、小さい頃のまま、べったりするのが良いのではない。子どもだったあなたが大人へと成長し、自立する過程に合わせて、時期ごとに何度も関係を築き直し、大人同士の関係へと変化していくのが良い。そう気づかせてくれます。

 親との間に距離を開き、大人同士の関係を築く。それは、大変なことのように思えるかもしれません。ですが、せっかくこの世に生まれたのだから、あなたも、自立によって得られる心からの喜びと、大人としての自信を感じながら生きたいと思いませんか?

 

(2)病的な家族関係

  この本には、様々な病的な家族関係が紹介されています。例えば、子どもを愚痴の捌け口にする親。片方の親(母)が、子ども(息子)をもう片方の親(夫)の代理のように扱う関係。子に過干渉な親。旧家、スパルタ主義の父親等々…。

 あなたは、小さい頃から親の愚痴の捌け口ではありませんか?愚痴聞き役のあなたは、親を気づかって、同情してあげてきたよい子ですね。あなたは大人の世界は嫌なものだと思ったり、こういう親を見捨てて一人立ちするのはいけないことのように思ったりしていませんか?

 もしあなたが男性なら、息子であるあなたは、お父さんについての不満や愚痴を、お母さんから聞かされていませんか?あなたは、お母さんを気づかうあまり、頼れる夫の役割を背負わされていませんか?お母さんの喜ぶ顔を見たい一心で、お母さんの役に立ちたい一心で。あなたのお母さんは、夫に向けて嬉しい顔を見せたことがない。そのせいで、あなたは、お父さんのような男性になってはならないと、男性である自分を否定していませんか?あなたは、男性一般を卑下し、恋愛から遠ざかっていませんか?本来、お母さんの不満は、あなたに向けるべきものではなく、お父さんに対してのものです。お母さんの態度は、息子を育てる親としては失格なのです。

 もしかしたら、あなたは、親から過度な干渉を受けてきませんでしたか?「どこへ行くの?」「ちゃんと背を伸ばしなさい」「しっかりするんだよ」「ひじをのばして歩くんだよ」 こんな、細かい指示ばかりが、四六時中飛んでくる家にいて、首を真綿で絞められているような気分がしませんか?子どもを過保護にする親は、実は自分が保護されたいと思っている、不安な親なんですって。

 もしかしたら、あなたは、旧家に生まれ、家の伝統の重みや、伝統によって蓄積された問題を一身に背負っていませんか? あなたには、スパルタ主義のお父さんがいて、あなたに自立を促すといって武道をさせたり、ジョギングをさせたりししませんか?お父さんは、そういう形で世話を焼いて、あなたの自立を邪魔しています。

(3)病気になった人が家族をつなげる

 家族というのは、つながりでできています。そのつながりが、時として、あなたの精神を不健康にすることもあります。不健康な精神状態に陥ったあなたは、実は、家族の中で調停者の役割を担っているかもしれません。調停者というのは、他の家族がもつお互いの不満を吸収するクッションのような役割で、それによって、家族はなんとかバランスを保って崩れずにいます。けれど、調停者は、つらいです。調停者は、親のことを放りだして、自由にすると、病気が治ることが多いそうです。家族の関係は、一旦崩壊するかもしれないけれど、新しく適切な距離感で関係を結び直すことで、健全な状態へ向かうことができるかもしれません。

  今、あなたは、統合失調症ニートなどのかたちで、家族の問題を引き受けているかもしれない。けれど、それもそろそろやめて、親や家族との距離をとり、外の世界へつながっていきましょうよ。親を離れることを怖がらないで。家庭の外に広がる世界は、家族とはまた違う力をもっています。外の世界で生き、新しい人間関係をもつことが、あなたに大人としての心からの自信をもたせてくれるでしょう。