赤ちゃんにも親にもストレスのない育児をするために 松田道雄『定本 育児の百科』全三巻 岩波書店

(1)事典のように引ける

 この本(松田道雄『定本 育児の百科』全三巻 岩波書店)は、今は亡き小児科医が書いた、家庭の医学的な本です。やや昔に書かれていますが、現代の親にもきっと役立ちます。こどもの月齢・年齢ごとに、さまざまな病気や、心配な症状にどう対処するかが書かれています。家庭の医学事典のように、困ったときに、必要な項目だけ探して読めるようになっています。なので、この本は、親がすぐ手の届くところに備えておいて、必要が出たらすぐ手に取って読めるようにしておくことをお勧めします。

(2)幅広い内容―病状の診断から保育環境まで―

 現代では、小児病院などがネット上に開設したサイトで、熱が出たときなどに簡易な診断をしてくれるサイトもあります。ただ、本書のように、親は日常生活でどんな心構えで赤ちゃんの病的な症状に向き合ったらよいのかといった観点まで書いてあるものは、なかなかないかもしれません。それだけでなく、本書には、父親の育児参加や、親と保育園との望ましい関係、保育施設の望ましい規模や職員数といった社会インフラ的なことまで、育児に必要な実に様々な事柄が書かれています。

(3)医学的観点

 世の中で見かける育児書には、普通の親が書いた出産や子育ての経験談や、教育や心理の専門家が書いた、しつけや学習の方法などがあります。また、男性の育児参加という観点から、夫婦でどうやって子育てするかという内容のものもあります。それはそれで、大いに参考になります。ただ、本書はそういった本とは違い、医学的に子どもの症状に、どういう対処をすべきかという観点から、しっかり書いてあります。

 赤ちゃんが、熱を出したとき、その症状が重病を意味するのか、ただ見守るだけでよいのか?赤ちゃんは、熱以外にも、せきやたんが出る(ぜんそくかと心配する)、下痢をする、泣いている、ミルクをのまない、吐いてしまう、などさまざまな症状を出し、親は慌てふためくでしょう。真夜中に症状が出たとき、朝まで待つべきか、それとも、今すぐ救急車を呼ぶべきか…。そんなとき、親が知識をもっていて、落ち着いて子どもを診ることができれば、いたずらに慌てなくてもよくなるでしょう。そして、本当に必要な時には、すぐに病院に駆け込む判断ができるでしょう。それだけで、親に余裕がうまれ、育児のストレスがどれほど軽減されることでしょう。親に余裕があれば、赤ちゃんだってストレスを感じずに済みます。その結果、育児にどれほど、好循環が生まれることでしょう!

(4)子育てが不安で、結婚を躊躇している人にもおすすめ

 本書は、赤ちゃんをもつ親だけでなく、これから親になりたい人、それだけでなく、親になれるか心配で結婚を躊躇している人にもお勧めです。なぜなら、この本は、そういった不安を持つ人が、子どもを持つ前に、あらかじめ目を通してみることで、或る程度いろいろな事態を想像できる良さがあるからです。

 現代の若者たちが結婚を躊躇する理由の一つに、子どもが生まれたら大変そうだというのがあると思います。しかし、その「大変そうだ」というものの中には、いざというときの対処法がわからないことからくる不安もあるでしょう。また育児の実際を想像できないことから来るものもあるでしょう。この本には、新生児のもつ症状から、家庭の事故防止に必要なことまで書いてあります。そのため、親がいたずらな不安をもたずに、困った状況をあらかじめ回避するのにも役立つでしょう。

 皆さま、是非ご一読を!