家族関係(特にDV)に悩む人へ さかもと未明 『神様は、いじわる』 文藝春秋(文春新書725)2009年

本を手に取った動機 ―DV家庭が生まれ変わる物語ー

 私がこの本を手に取ったのは、タイトルに魅かれたからです。中を読んでみると、今自分が考えたいと思っていることが、ちょうどこの本に書かれていました。私は、「これから私が大切にしようとする人が、もし家庭内暴力ドメスティックバイオレンス、DV)のある家庭に育った人だとしたら、自分は果たして相手の人生を受け止められるだろうか」、「どうしたら相手と新しい家庭を築けるだろうか」と考えていたからです。

 

家庭内暴力を見て育つ

 筆者の育った家では、父が酒に酔うと、母に暴力を振るう、日常的な家庭内暴力(DV)がありました。3人兄弟の一番上の姉だった筆者は、それを見て育ち、その影響をもろに受けてしまいます。筆者は、成長過程で様々な体調不良を訴えており、さらに大人になってから難病にかかり、現在も闘病しています。また、筆者は、若い頃に結婚したものの離婚し、子どもを産むことは諦めています。この本を読んで、家庭内暴力のすさまじさは、想像以上だと思いました。自分がそれを見て育つ子供の立場だったとしたら、どんなに辛いことかと思いました。

 この本を読んでいる途中、私は何度も涙が出て来ました。人生には、「神様は、いじわる」と思いたくなることもあります。けれど、その最中にあっても、実は悪いばかりではないと思えるような出会いや、出来事もあり得るのだと読み取れました。そこに、感動したから涙が出てきたのです。だから、たとえ辛い環境にあっても、人生を諦めないで、その意味を問い直してみようと思えてきます。

 

実家を出て、社会(仕事)が家庭の代わりになった

 筆者は、実家を出て、漫画家になるという夢を叶えたり、タレントとして活動したりしていきます。そうした仕事を通して、家族の代わりになるような新しい出会いがありました。所属事務所に大事にされたり、北朝鮮によってめぐみさんを拉致された横田夫妻と出会ったりと、家庭の代わりになるような新しい出会いをもつことになります。

 

家族はなぜ家族なのか?

 筆者の実家はDVがあり、辛い家族関係だったはずなのに、私がこの本を読んで、家族らしい温かさや喜びを感じることが3つあります。

 1つ目は、実家に祖母が同居していて、子どもの頃の筆者の相談相手になっていたことです。筆者の祖母は、大変苦労をしてきた人で、学校でいじめられて帰ってくる筆者の相談相手になったり、両親のことを見て、「お前はあの親たちとは合わねえよ。だから家を出たほうが元気になる。困ったら、ばあちゃんがいつでも相談にのってやるからな」と言ってくれるような人でした。祖母という、両親とはちがう立場の人が見守ってくれたおかげで、筆者の人生は、だいぶ救われたようです。家族の中に、親子とは異なる立場の人がいて、異なる役割を担ってくれるところに、家族らしさを感じます。家族の人数は、多い方がいいなと感じた部分です。

 2つ目は、父も、暴力を振るう困った父ではあるけれど、家族をもつことに喜びと気概を感じていたことです。それは、筆者が生まれた時に、父が喜んだことに表れています。また、筆者が大学の入学試験に受かった時のこと、筆者の父は学費を払い込み、「よしお前たち三人、みんな大学だしてやる。」といって、喜んでまた毎朝五時起きをして会社に行きます。そして、そんな父の優しさが好きで、筆者は「父がどれだけ暴れても嫌いになれなかった」と書いています。

 3つ目は、筆者が膠原病(こうげんびょう)という難病に罹った時、両親が初めて筆者を本気で大切にした時です。両親は、これまで娘を犠牲にし、苦労させてきたのだと初めて気づき、そこから家族関係が修復されていきます。筆者は、難病になって初めて、子どもらしく両親に助けを求めることができました。そして、両親に頼りたいという心の底からの願いを、聞き届けてもらうことができたのでした。

 

生まれ変わる家族

 筆者が難病になった後、筆者の父は酒をやめ、暴力も振るわなくなります。そして、筆者の母は、昔のことをけろっと忘れて、父のことを許しているそうです。父はアルコール依存ではなく、単に酒癖が悪かっただけなのだそうです。また、筆者の母も、筆者の家を掃除しに来てあげたり、おいしい手料理(カレー)を作ったりしてくれます。筆者は、思春期の時は体が食べることを拒絶していたので、母の料理を食べられなかったのですが、大人になって両親に難病を打ち明けてから、ようやく食べられるようになりました。筆者が難病に罹り、もはや治ることは不可能になったのは、本当に不幸ですが、その反面、家族の関係が新しく結び直されたのでした。

 

家族の可能性

 私がこの本から教えてもらったことは、2つあります。

 1つ目は、家族というものは、こんなにも変わり得るものだということです。もちろん、家庭内暴力がある家庭が、全て良い方向へ生まれ変わるとは言えません。親が全く鈍感で子どもが犠牲になっていること気づかない事もあり得ます。しかし、この例のように、大人は、子どもから現実を突き付けられることによって、ようやく自分たちの悪さに気づく例もあるのです。家族には、新しく関係を結び直し、より良いものへと修復する可能性があるのです。

 2つ目は、子どもは、親に助けてもらったり、受け止めてもらったりすることを、何歳になっても心の底から求めているのだということ、そして、親との関係が修復されると、その気持ちは満たされるのだということです。今、満たされない心を抱えている人も、この先、家族の修復が実現しないとも限りません。

 私は、この本を読んで、改めて、人間同士が家族でいることの意義を見直すことができたと思います。