幸せな女性になるために  ヘルムート・バルツ著『青髭(あおひげ) 愛する女性(ひと)を殺すとは?』新曜社、1992年

 (1)女性が幸せになるために

 あなたは女性として幸せですか?

 女性がもっと幸せを感じられるようになるために、私がおすすめするのが、これから紹介する、ヘルムート・バルツ著青髭 愛する女性(ひと)を殺すとは?』です。現在も多くの女性が夫のDV(ドメスティックバイオレンス)に苦しむ現実があります。また、たとえ、暴力を受けるところまでいかなくとも、多くの女性が、家族のように近しい関係にある男性がもつ冷たさに、心が打ち砕かれることはあるのです。ですから、この本に書かれていることは、多くの女性たちにとって無関係ではありません。

 『青髭 愛する女性(ひと)を殺すとは?』に書かれていることで、多くの女性が幸せになるために必要なことは、次の4つの点にまとめることができます。

   1.  まず、女性が男性心理の負の側面を知ること

 2. 次に、女性の内面にも、男性性の負の側面が潜んでいることを自覚すること

 3. さらに、女性自身が、健全な女性性とはどういうものかを考察し、その内容を皆と共有すること

   4. 最後に、女性が、男性を打ち負かすのではなく、男性と一緒に男性性の負の側面に向き合うこと

 (2)普遍的な男性心理

 グリム童話の『青髭』って、ご存知ですか? 童話のあらすじは、妻が冷酷で残忍な夫(青髭)から殺されそうになり、実の兄達に助けを求めて、最後に命からがら助かるというものです。

 『青髭』に出てくる夫の青い髭は、冷酷で残忍な心理を象徴したものです。この男(青髭)の冷酷・残忍な心理は、普遍的な男性の深層心理の一面を表現したものだそうです。しかし、著者は、男性を一方的に非難するわけではありません。著者が目指すところは、男性と女性が向き合い、お互いが幸せになることです。

 著者バルツは、童話『青髭』をユング心理学の手法で読み解き、男性の深層心理に、女性を支配し抑圧する負の側面が潜むことを明らかにしています。それと同時に、女性が、男性支配の構造から逃れ、真に幸せになるためには、女性自身が、自らの心にある男性性に目を向け、抑圧されてきた女性性を肯定することの意義が説かれています。また、女性が、自らの女性性を肯定していくことは、女性の幸せだけでなく、男性をも救済することにつながると書かれています。 

 

(3)男性心理の負の側面

 男性は、なぜ女性に対して、冷酷・残忍なのでしょうか? 著者によれば、それは、男性が自身の内に女性性があることを認めるのを恐れるからだということです。男性は、自らのうちに女性性があることを認め難く感じている場合、女性を蔑視することによって、男性自身から女性性を切り離そうとし、結果的に女性に対して冷酷・残忍になるのだそうです。しかし、男性は一方では女性に対して冷酷・残忍でありながら、他方では、そうした冷酷・残忍さを女性から許され、愛してもらいたいという願望をもった、やっかいな心理の持ち主だということが書かれています。男性は、一方で冷酷さを女性に突き付けながら、他方で女性に救済を求める弱さをもちます。男性は、一方では、男性である自分から女性性を切り離そうとし、他方でそのような冷酷な自己から救済されるために女性性を必要とするというように、分裂した心理状態にあって苦しんでいるというのです。

 

(4)女性の内面にもある男性性

 また、著者は、『青髭』の物語は、男性の普遍的な心理であるばかりでなく、女性の心理にも男性性が植え付けられていることを反映していると指摘します。

 著者によると、娘がいる家庭で、母親の女性性が弱い状態では、娘の女性性も十分に育たないといいます。母親が個性をもたず世話人でしかない家庭にあって、娘が父や兄から男性優位の価値観を押し付けられて育つ場合、彼女は少女ではなく少年になるように育てられることになります。そのような環境に育った少女は、女性性を抑圧し、男性的な価値観を実現することを自らに課すようになります。少女の内面に育った男性性が強すぎることで、彼女は、自らの女性性を破壊してしまうのです。

 なお、本書を敷衍すれば、女性が成長過程で女性性を十分発達させられずに育つことは、女性のみならず男性にとっても不幸につながります。女性の内に、強い男性性しか育まれず、十分な女性性が生育しない場合、男性は、女性から許され得ず、救済され得ないことを意味するからです。女性からの救いの道が絶たれる男性は、女性に対する自らの男性としての冷酷さと、女性からの救いを求める弱さとの間で分裂状態に苦しみ続けるのです。

 

(5)男性性の健全な側面

 ただし、筆者によれば、男性性には、冷酷・残忍な側面のほかに、健全な側面があるようです。娘が育つ過程で父や兄といった男性の世界から与えられる男性性は、健全な愛情による部分も含まれています。そうした健全な愛情によって女性の内面に育まれた男性性は、女性が恐ろしい殺人的な男の支配から逃れる際に役立ち、女性にとっての救いになるとのことです。

 健全な男性性とは、どのようなものでしょうか。本書では、それは「軽妙さ」という言葉に要約されています。「軽妙さ」は、「狡猾、冗談、皮肉、自分を皮肉ること、機知、構えない態度、ブラックユーモア」とも言い換えられます。

 

(6)望ましい女性解放のありかたとは

 筆者バルツは、女性解放論者(フェミニスト)をはじめとして、女性が女性解放のために父権制に立ち向かうことに関して、一定の方向性を示しています。筆者は、父権制を暴力的に排除して、純粋に母権制を実現することは望ましくないと言います。純粋な母権制は、父権制からの行き過ぎた反動を招きかねないし、有益でもないからです。筆者は、父権制を完全に排除しようとするのではなく、母権制と両立させ、ちょうど接ぎ木のような手法で、双方の長所を得るのがよいと考えているようです。

 では、女性は、どうやって、男性性のもつ冷酷・残忍な負の側面と戦うのでしょうか?筆者バルツは、女性自身が、自らの内をみつめ、自己の内にある青髭性と戦うことだといいます。女性が冷静に自己を観察し、青髭と自己を区別するならば、絶対的な力をもつかに見えた青髭が、ぐらつくのだと言います。

 筆者バルツの考えでは、望ましい女性解放とは、まず、女性が自らの内にある健全な男性性(童話の中で女主人公を助けた兄たちに象徴される)の力を借りて、冷酷・残忍な男性性の負の側面(青髭性)に立ち向かい、父権制の支配から脱出することだというわけです。さらに、女性が、外から押し付けられた父権制のせいで、自らの内に青髭性が内在化してしまったことにも気づくことが大切だとしています。そして、女性が自らの内面に植え付けられた青髭性との戦いについて、公開の場で考察することだというのです。

 

(7)女性の内面における健全な男性的精神の育成

 女性が、女性性を発達させる前に必要なこととして、筆者が挙げることは、まず女性たちが女性(母親)の影響をつうじて、女性の内面に生まれつき備わる男性的側面を、健全な方向に発達させることです。もともと少女に備わっている男性的側面は、母性の庇護の下に育まれると、女性的価値を含んだ男性的な諸力となります。それらの男性的な力は、男性における意識的な男性性(分離・計算・数を数える・計画・製作)とは別のものになると筆者は言います。女性的な価値を含んだ男性的諸力とは、具体的には、結合・統合・包み込む・創造的変容の能力(少女にももともと備わっている行動意欲は、母親の庇護下では男性的な攻撃となることがない)・自然な成長・察知・予感・直観・知恵(単なる識別力だけではない)とのことです。

 しかし、少女が育つ際に、母親の影響が弱く、父権制優位の世界にあって、父や兄の手本が押し付けられる場合、少女はまるで自分が男性であるかのように、自らの女性的な可能性を殺してしまいます。童話の中で殺される女性は、実は、強力に発達しすぎた自分の男性性の犠牲になった、女主人公の女性的可能性なのだ、と筆者は言います。少女が男性的性質を発達させるにあたって、母親由来の女性的方法によるのでなければ、少女にとって望ましくないのです。

 

(8)女性性の再評価 救済を望む男性と向き合うこと

 ただし、筆者バルツは、女性が、男性性の健全な側面に力を得て、男性性の負の面を打ち負かすことは、最初の段階にすぎないと考えています。次の段階として、女性は、自分以外の多くの女性を見て、女性性の価値を見出すべきだというわけです。そのようにして、女性としての強さを十分に蓄えたならば、今度青髭性をもった男性に遭遇したとしても、その男性に対して、単に彼の青髭性を否定するのとは違った対処ができるようになっているというのです。それは、その男性がもつ、青髭性を容赦なく殺すことではなく、その男性と一緒に、青髭性に向き合うという仕方になるようです。

 

 

 

 

 

 

 

家族関係(特にDV)に悩む人へ さかもと未明 『神様は、いじわる』 文藝春秋(文春新書725)2009年

本を手に取った動機 ―DV家庭が生まれ変わる物語ー

 私がこの本を手に取ったのは、タイトルに魅かれたからです。中を読んでみると、今自分が考えたいと思っていることが、ちょうどこの本に書かれていました。私は、「これから私が大切にしようとする人が、もし家庭内暴力ドメスティックバイオレンス、DV)のある家庭に育った人だとしたら、自分は果たして相手の人生を受け止められるだろうか」、「どうしたら相手と新しい家庭を築けるだろうか」と考えていたからです。

 

家庭内暴力を見て育つ

 筆者の育った家では、父が酒に酔うと、母に暴力を振るう、日常的な家庭内暴力(DV)がありました。3人兄弟の一番上の姉だった筆者は、それを見て育ち、その影響をもろに受けてしまいます。筆者は、成長過程で様々な体調不良を訴えており、さらに大人になってから難病にかかり、現在も闘病しています。また、筆者は、若い頃に結婚したものの離婚し、子どもを産むことは諦めています。この本を読んで、家庭内暴力のすさまじさは、想像以上だと思いました。自分がそれを見て育つ子供の立場だったとしたら、どんなに辛いことかと思いました。

 この本を読んでいる途中、私は何度も涙が出て来ました。人生には、「神様は、いじわる」と思いたくなることもあります。けれど、その最中にあっても、実は悪いばかりではないと思えるような出会いや、出来事もあり得るのだと読み取れました。そこに、感動したから涙が出てきたのです。だから、たとえ辛い環境にあっても、人生を諦めないで、その意味を問い直してみようと思えてきます。

 

実家を出て、社会(仕事)が家庭の代わりになった

 筆者は、実家を出て、漫画家になるという夢を叶えたり、タレントとして活動したりしていきます。そうした仕事を通して、家族の代わりになるような新しい出会いがありました。所属事務所に大事にされたり、北朝鮮によってめぐみさんを拉致された横田夫妻と出会ったりと、家庭の代わりになるような新しい出会いをもつことになります。

 

家族はなぜ家族なのか?

 筆者の実家はDVがあり、辛い家族関係だったはずなのに、私がこの本を読んで、家族らしい温かさや喜びを感じることが3つあります。

 1つ目は、実家に祖母が同居していて、子どもの頃の筆者の相談相手になっていたことです。筆者の祖母は、大変苦労をしてきた人で、学校でいじめられて帰ってくる筆者の相談相手になったり、両親のことを見て、「お前はあの親たちとは合わねえよ。だから家を出たほうが元気になる。困ったら、ばあちゃんがいつでも相談にのってやるからな」と言ってくれるような人でした。祖母という、両親とはちがう立場の人が見守ってくれたおかげで、筆者の人生は、だいぶ救われたようです。家族の中に、親子とは異なる立場の人がいて、異なる役割を担ってくれるところに、家族らしさを感じます。家族の人数は、多い方がいいなと感じた部分です。

 2つ目は、父も、暴力を振るう困った父ではあるけれど、家族をもつことに喜びと気概を感じていたことです。それは、筆者が生まれた時に、父が喜んだことに表れています。また、筆者が大学の入学試験に受かった時のこと、筆者の父は学費を払い込み、「よしお前たち三人、みんな大学だしてやる。」といって、喜んでまた毎朝五時起きをして会社に行きます。そして、そんな父の優しさが好きで、筆者は「父がどれだけ暴れても嫌いになれなかった」と書いています。

 3つ目は、筆者が膠原病(こうげんびょう)という難病に罹った時、両親が初めて筆者を本気で大切にした時です。両親は、これまで娘を犠牲にし、苦労させてきたのだと初めて気づき、そこから家族関係が修復されていきます。筆者は、難病になって初めて、子どもらしく両親に助けを求めることができました。そして、両親に頼りたいという心の底からの願いを、聞き届けてもらうことができたのでした。

 

生まれ変わる家族

 筆者が難病になった後、筆者の父は酒をやめ、暴力も振るわなくなります。そして、筆者の母は、昔のことをけろっと忘れて、父のことを許しているそうです。父はアルコール依存ではなく、単に酒癖が悪かっただけなのだそうです。また、筆者の母も、筆者の家を掃除しに来てあげたり、おいしい手料理(カレー)を作ったりしてくれます。筆者は、思春期の時は体が食べることを拒絶していたので、母の料理を食べられなかったのですが、大人になって両親に難病を打ち明けてから、ようやく食べられるようになりました。筆者が難病に罹り、もはや治ることは不可能になったのは、本当に不幸ですが、その反面、家族の関係が新しく結び直されたのでした。

 

家族の可能性

 私がこの本から教えてもらったことは、2つあります。

 1つ目は、家族というものは、こんなにも変わり得るものだということです。もちろん、家庭内暴力がある家庭が、全て良い方向へ生まれ変わるとは言えません。親が全く鈍感で子どもが犠牲になっていること気づかない事もあり得ます。しかし、この例のように、大人は、子どもから現実を突き付けられることによって、ようやく自分たちの悪さに気づく例もあるのです。家族には、新しく関係を結び直し、より良いものへと修復する可能性があるのです。

 2つ目は、子どもは、親に助けてもらったり、受け止めてもらったりすることを、何歳になっても心の底から求めているのだということ、そして、親との関係が修復されると、その気持ちは満たされるのだということです。今、満たされない心を抱えている人も、この先、家族の修復が実現しないとも限りません。

 私は、この本を読んで、改めて、人間同士が家族でいることの意義を見直すことができたと思います。

中村正夫著『男たちの脱暴力 DV克服プログラムの現場から』朝日新聞社、2003年 

家庭内暴力を加害者男性の視点から語る

 『男たちの脱暴力 DV克服プログラム』は、被害者側ではなく、加害者側をサポートすることで、DVを減らしていくことをめざす本です。この本の特長は、加害者自身が書いたものだという点です。男性(加害者)側の視点から見ると、DVはこんな風に見えているということが分かります。そして、男性自身も嬉しさや、悲しさを感じる人間であり、傷ついているということが書かれています。

 

暴力を別のコミュニケーションに変えよう

 暴力をやめるには、自分が怒りの感情を表現したかったのだと自覚することです。そして、その表現方法を、暴力以外のコミュニケーションに変換することだと書かれています。

 

女性も知っておきたい 男性と女性の思考回路の違い

 私が、注目したのは、男性と女性の思考回路の違いが、DVの引き金になっている事例です。妻は夫への思いやりから、その日の出来事を聞き出そうとして話しかけます。でも、夫にとっては、話しかけられることが一日の仕事の疲れをとる邪魔になっている事例があるようです。女性はコミュニケーションに愛情表現の意味をもたせるけれど、男性はそのように感じず、ストレスが増幅することがあるのです。

 私は女性なので、妻が夫のことを知りたいと思って、話しかけたくなる気持ちはよくわかります。しかし、女性が話しかけるせいで夫にストレスがたまり、時には暴力に訴えてしてしまうことがあるとは、驚きの事実です。女性も、こんな事例があることを知っていれば、男性に対する言葉かけを、もう少し工夫できるかもしれません。

 

 男性側の心がけ

 本書の内容からして、男性は、妻の前では格好をつけずに、もっと自分の感情をさらけ出すと良いかもしれません。そのとき、暴力ではなく、言葉などの別の表現方法でさらけだすと良いようです。そんなことはしたくない・できないという男性は、「男は愚痴を言ってはいけない」とか、「妻に弱みを見せてはいけない」といった、男らしさの固定観念にとらわれているかもしれません。そのせいで、妻にありのままの自分を見せられないのかもしれません。

 また、妻に話しかけられるのがストレスになる男性は、妻を黙らせる(喜ばせる)コツを知っておくとよいでしょう。そのコツは、本書の事例からもわかるように、夫自らが、その日、外であった出来事を話したり、夫自身の愚痴や感情を吐露することです。本書は男性側の視点で書かれているので、本書には書いてありませんが、女性にとっては、感情を吐露することは、聞かせて恥ずかしいことでも、責められるべきことでもありません。女性にとって、自分の気持ちを話すことは、それを聞かせる相手に向けて「愛している」というメッセージを送っているのと同等です。そのため、もし、夫が妻に夫自身のことを話すならば、それは、夫が妻に向けて「愛している」と言ってくれているように感じられます。そのため、夫が自分の気持ちを話す方が、妻は満足しやすく、話を早く切り上げることができるのです。

 次に、本書の事例を参考にして、逆から考えると、反対にダメだと思われるのが、夫が妻の話を聞いてあげようとして、黙ってしまうことです。妻は、夫と愛情(言葉)のやりとりをしたいと思って、夫に話し掛け続けます。そのため、夫が夫自身のことを話さず黙っている限り、妻は夫からの愛を感じることがないからです。妻は夫に言葉(愛情)を掛け足りないせいで、夫から言葉(愛情)を返してもらえないのだと感じ、その結果、話を終わらせなくなるのです。

 また、本書とはやや離れますが、他の本(文春新書の本。題名は機会が有ったら追記します)や世間でもよく言われるように、妻の話の内容が、終わりの見えない愚痴だった場合でも、妻は夫に問題解決やアドバイスを求めていないことがほとんどです。妻は、その日の出来事について、原因からさかのぼって順に話すことで、妻自身の置かれた状況を俯瞰的に見ようとしているだけです。妻が夫に話を聞いてもらうことは、夫と一緒に状況を把握することを意味します。そして、妻は、問題の解決法は妻がこれから考えるつもりで話しているのです。

 

まとめ DVへの今後の取り組みを期待して

 おそらく、DVは昔からあったはずですが、ここ最近取り上げられるようになって、問題解決しようと取り組まれていることは、本当に良いことだと思います。今後の取り組みに期待します。

 

赤ちゃんにも親にもストレスのない育児をするために 松田道雄『定本 育児の百科』全三巻 岩波書店

(1)事典のように引ける

 この本(松田道雄『定本 育児の百科』全三巻 岩波書店)は、今は亡き小児科医が書いた、家庭の医学的な本です。やや昔に書かれていますが、現代の親にもきっと役立ちます。こどもの月齢・年齢ごとに、さまざまな病気や、心配な症状にどう対処するかが書かれています。家庭の医学事典のように、困ったときに、必要な項目だけ探して読めるようになっています。なので、この本は、親がすぐ手の届くところに備えておいて、必要が出たらすぐ手に取って読めるようにしておくことをお勧めします。

(2)幅広い内容―病状の診断から保育環境まで―

 現代では、小児病院などがネット上に開設したサイトで、熱が出たときなどに簡易な診断をしてくれるサイトもあります。ただ、本書のように、親は日常生活でどんな心構えで赤ちゃんの病的な症状に向き合ったらよいのかといった観点まで書いてあるものは、なかなかないかもしれません。それだけでなく、本書には、父親の育児参加や、親と保育園との望ましい関係、保育施設の望ましい規模や職員数といった社会インフラ的なことまで、育児に必要な実に様々な事柄が書かれています。

(3)医学的観点

 世の中で見かける育児書には、普通の親が書いた出産や子育ての経験談や、教育や心理の専門家が書いた、しつけや学習の方法などがあります。また、男性の育児参加という観点から、夫婦でどうやって子育てするかという内容のものもあります。それはそれで、大いに参考になります。ただ、本書はそういった本とは違い、医学的に子どもの症状に、どういう対処をすべきかという観点から、しっかり書いてあります。

 赤ちゃんが、熱を出したとき、その症状が重病を意味するのか、ただ見守るだけでよいのか?赤ちゃんは、熱以外にも、せきやたんが出る(ぜんそくかと心配する)、下痢をする、泣いている、ミルクをのまない、吐いてしまう、などさまざまな症状を出し、親は慌てふためくでしょう。真夜中に症状が出たとき、朝まで待つべきか、それとも、今すぐ救急車を呼ぶべきか…。そんなとき、親が知識をもっていて、落ち着いて子どもを診ることができれば、いたずらに慌てなくてもよくなるでしょう。そして、本当に必要な時には、すぐに病院に駆け込む判断ができるでしょう。それだけで、親に余裕がうまれ、育児のストレスがどれほど軽減されることでしょう。親に余裕があれば、赤ちゃんだってストレスを感じずに済みます。その結果、育児にどれほど、好循環が生まれることでしょう!

(4)子育てが不安で、結婚を躊躇している人にもおすすめ

 本書は、赤ちゃんをもつ親だけでなく、これから親になりたい人、それだけでなく、親になれるか心配で結婚を躊躇している人にもお勧めです。なぜなら、この本は、そういった不安を持つ人が、子どもを持つ前に、あらかじめ目を通してみることで、或る程度いろいろな事態を想像できる良さがあるからです。

 現代の若者たちが結婚を躊躇する理由の一つに、子どもが生まれたら大変そうだというのがあると思います。しかし、その「大変そうだ」というものの中には、いざというときの対処法がわからないことからくる不安もあるでしょう。また育児の実際を想像できないことから来るものもあるでしょう。この本には、新生児のもつ症状から、家庭の事故防止に必要なことまで書いてあります。そのため、親がいたずらな不安をもたずに、困った状況をあらかじめ回避するのにも役立つでしょう。

 皆さま、是非ご一読を!

 

 

家族が重荷に感じるあなたに… 中井久夫著『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫

(1)親との関係を見直す本

  もし、あなたが、今、家族の重苦しさに耐えかねているなら、この本(中井久夫著『「つながり」の精神病理』ちくま学芸文庫)は、あなたの肩の荷を降ろしてくれるでしょう。

 もしかしたら、あなたは、今、浪人生かもしれないし、ぶらぶらしているニートかもしれないし、喘息の人かもしれないし、統合失調症の人かもしれない。本書の著者は言います。そんな、一見、家族の中で問題児と見られている人、問題を抱えて苦しむ人が、実はバラバラな家族をまとめようとして、大変な役目を引き受けていることが多い、と。そして、普通、子は親に甘えるが、実は親も子に甘えることが多い。親は、子に甘えていることに無自覚で、病的な場合も多い、と。この本のタイトルに興味をもった、あなたは、自立の時期を迎えて、そんな親との関係を見直したくなっているのかもしれません。

 親子は、いつまでも、小さい頃のまま、べったりするのが良いのではない。子どもだったあなたが大人へと成長し、自立する過程に合わせて、時期ごとに何度も関係を築き直し、大人同士の関係へと変化していくのが良い。そう気づかせてくれます。

 親との間に距離を開き、大人同士の関係を築く。それは、大変なことのように思えるかもしれません。ですが、せっかくこの世に生まれたのだから、あなたも、自立によって得られる心からの喜びと、大人としての自信を感じながら生きたいと思いませんか?

 

(2)病的な家族関係

  この本には、様々な病的な家族関係が紹介されています。例えば、子どもを愚痴の捌け口にする親。片方の親(母)が、子ども(息子)をもう片方の親(夫)の代理のように扱う関係。子に過干渉な親。旧家、スパルタ主義の父親等々…。

 あなたは、小さい頃から親の愚痴の捌け口ではありませんか?愚痴聞き役のあなたは、親を気づかって、同情してあげてきたよい子ですね。あなたは大人の世界は嫌なものだと思ったり、こういう親を見捨てて一人立ちするのはいけないことのように思ったりしていませんか?

 もしあなたが男性なら、息子であるあなたは、お父さんについての不満や愚痴を、お母さんから聞かされていませんか?あなたは、お母さんを気づかうあまり、頼れる夫の役割を背負わされていませんか?お母さんの喜ぶ顔を見たい一心で、お母さんの役に立ちたい一心で。あなたのお母さんは、夫に向けて嬉しい顔を見せたことがない。そのせいで、あなたは、お父さんのような男性になってはならないと、男性である自分を否定していませんか?あなたは、男性一般を卑下し、恋愛から遠ざかっていませんか?本来、お母さんの不満は、あなたに向けるべきものではなく、お父さんに対してのものです。お母さんの態度は、息子を育てる親としては失格なのです。

 もしかしたら、あなたは、親から過度な干渉を受けてきませんでしたか?「どこへ行くの?」「ちゃんと背を伸ばしなさい」「しっかりするんだよ」「ひじをのばして歩くんだよ」 こんな、細かい指示ばかりが、四六時中飛んでくる家にいて、首を真綿で絞められているような気分がしませんか?子どもを過保護にする親は、実は自分が保護されたいと思っている、不安な親なんですって。

 もしかしたら、あなたは、旧家に生まれ、家の伝統の重みや、伝統によって蓄積された問題を一身に背負っていませんか? あなたには、スパルタ主義のお父さんがいて、あなたに自立を促すといって武道をさせたり、ジョギングをさせたりししませんか?お父さんは、そういう形で世話を焼いて、あなたの自立を邪魔しています。

(3)病気になった人が家族をつなげる

 家族というのは、つながりでできています。そのつながりが、時として、あなたの精神を不健康にすることもあります。不健康な精神状態に陥ったあなたは、実は、家族の中で調停者の役割を担っているかもしれません。調停者というのは、他の家族がもつお互いの不満を吸収するクッションのような役割で、それによって、家族はなんとかバランスを保って崩れずにいます。けれど、調停者は、つらいです。調停者は、親のことを放りだして、自由にすると、病気が治ることが多いそうです。家族の関係は、一旦崩壊するかもしれないけれど、新しく適切な距離感で関係を結び直すことで、健全な状態へ向かうことができるかもしれません。

  今、あなたは、統合失調症ニートなどのかたちで、家族の問題を引き受けているかもしれない。けれど、それもそろそろやめて、親や家族との距離をとり、外の世界へつながっていきましょうよ。親を離れることを怖がらないで。家庭の外に広がる世界は、家族とはまた違う力をもっています。外の世界で生き、新しい人間関係をもつことが、あなたに大人としての心からの自信をもたせてくれるでしょう。

 

 

調べ学習にもつかえる! 磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』中公新書2295・『絵図で読み解く天災の日本史』別冊宝島2339

 今や日本全国、どこでも地震などの自然災害の恐れがあるのは、皆の知るところ。このブログを見たあなたは、自分の身を守るにはどうしたらいいか考えているかもしれませんね。それを教えてくれるのが、磯田道史著『天災から日本史を読みなおす』中公新書(2295)と、同じく磯田道史著『絵図で読み解く天災の日本史』別冊宝島(2339)です。

 

 1冊目の天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)は、文が主体です。高校生以上なら、興味深く読めるでしょう。

 2冊目の絵図で読み解く天災の日本史 (別冊宝島 2339)は古地図の写真やグラフなどが多く、ビジュアルで分かりやすくなっています。小学校・中学校の総合学習や、調べ学習、地域学習等にも使えるかもしれません。あなたが、小・中学生ならもちろんのこと、先生方や保護者のみなさんも是非参考にしてみてください。2冊目のこちらの本は、今のところ出版社では売り切れです。古本屋もしくは図書館で探すとよいでしょう。古本屋には、ネットで便利な日本の古本屋(日本の古本屋)があります。また、最寄りの図書館にない場合は、他図書館から取り寄せてくれるサービスを頼んでみましょう。

 さて、本の内容ですが、1冊目の天災から日本史を読みなおす - 先人に学ぶ防災 (中公新書)は、全国各地の災害史と、歴史的な出来事が密接に連動していることを、各地に伝わる石碑や古文書から紐解いてあります。この本は、豊臣秀吉江戸幕府といったテーマに絡んでいるため、歴史好きな人にとって面白いのはもちろんのこと、歴史になじみのない人にも、比較的わかりやすく説明してあります。朝日新聞の連載を加筆修正して書籍化したものとあって、万人向けのわかりやすさと、歴史的なことを伝えるための特有の詳細さがバランスよく考えられています。

 著者の磯田道史氏は、歴史学者として『武士の家計簿』を出版後、テレビなどでも活躍されているので、ご存知の方も多いでしょう。磯田氏が研究者として静岡県浜松市にある文化芸術大学で研究し、同県に在住中に出版されたのがこの本です。磯田氏は、この本で静岡県のことを沢山書いています。静岡県の人は、富士山のほか、伊豆、三保、浜松、磐田、袋井(浅羽)、掛川(横須賀)など知っている土地の名前のオンパレードで、とても詳しく書いてあるので、ちょっと感激するかもしれません。また、静岡県以外にも、東北、関東、京都、大阪、岡山、佐賀など、各地で起きた地震津波、富士山の噴火にともなう火山灰の降灰や、台風による高潮などの自然災害と、歴史的事件のつながりについて解説してあります。そちらにお住いのみなさんも、是非参考にしてみてはいかがでしょうか。

 2冊目の絵図で読み解く天災の日本史 (別冊宝島 2339)は、秀逸な編集で、全国各地の歴代の災害から、現代の災害、そして予想される未来の災害がビジュアルにまとめてあります。とても使い勝手がよいと思います。とくに目立った災害は、古文書や古地図を載せてあり、さらに、将来の南海トラフ地震で、北海道から中国・四国地方に至るまで、各地に予想される津波の高さを棒グラフでわかりやすく表示してあります。災害の予想は、テレビやネットの情報でも、すでに流れていますが、断片的ですし、映像だと時間とともに記憶から薄れてしまい、探すのも一苦労だったりします。しかし、この本は、1冊のコンパクトなページ数でまとまっています。秀逸な編集に感謝です。

 みなさま、是非参考にしてみてくださいね!