中村正夫著『男たちの脱暴力 DV克服プログラムの現場から』朝日新聞社、2003年 

家庭内暴力を加害者男性の視点から語る

 『男たちの脱暴力 DV克服プログラム』は、被害者側ではなく、加害者側をサポートすることで、DVを減らしていくことをめざす本です。この本の特長は、加害者自身が書いたものだという点です。男性(加害者)側の視点から見ると、DVはこんな風に見えているということが分かります。そして、男性自身も嬉しさや、悲しさを感じる人間であり、傷ついているということが書かれています。

 

暴力を別のコミュニケーションに変えよう

 暴力をやめるには、自分が怒りの感情を表現したかったのだと自覚することです。そして、その表現方法を、暴力以外のコミュニケーションに変換することだと書かれています。

 

女性も知っておきたい 男性と女性の思考回路の違い

 私が、注目したのは、男性と女性の思考回路の違いが、DVの引き金になっている事例です。妻は夫への思いやりから、その日の出来事を聞き出そうとして話しかけます。でも、夫にとっては、話しかけられることが一日の仕事の疲れをとる邪魔になっている事例があるようです。女性はコミュニケーションに愛情表現の意味をもたせるけれど、男性はそのように感じず、ストレスが増幅することがあるのです。

 私は女性なので、妻が夫のことを知りたいと思って、話しかけたくなる気持ちはよくわかります。しかし、女性が話しかけるせいで夫にストレスがたまり、時には暴力に訴えてしてしまうことがあるとは、驚きの事実です。女性も、こんな事例があることを知っていれば、男性に対する言葉かけを、もう少し工夫できるかもしれません。

 

 男性側の心がけ

 本書の内容からして、男性は、妻の前では格好をつけずに、もっと自分の感情をさらけ出すと良いかもしれません。そのとき、暴力ではなく、言葉などの別の表現方法でさらけだすと良いようです。そんなことはしたくない・できないという男性は、「男は愚痴を言ってはいけない」とか、「妻に弱みを見せてはいけない」といった、男らしさの固定観念にとらわれているかもしれません。そのせいで、妻にありのままの自分を見せられないのかもしれません。

 また、妻に話しかけられるのがストレスになる男性は、妻を黙らせる(喜ばせる)コツを知っておくとよいでしょう。そのコツは、本書の事例からもわかるように、夫自らが、その日、外であった出来事を話したり、夫自身の愚痴や感情を吐露することです。本書は男性側の視点で書かれているので、本書には書いてありませんが、女性にとっては、感情を吐露することは、聞かせて恥ずかしいことでも、責められるべきことでもありません。女性にとって、自分の気持ちを話すことは、それを聞かせる相手に向けて「愛している」というメッセージを送っているのと同等です。そのため、もし、夫が妻に夫自身のことを話すならば、それは、夫が妻に向けて「愛している」と言ってくれているように感じられます。そのため、夫が自分の気持ちを話す方が、妻は満足しやすく、話を早く切り上げることができるのです。

 次に、本書の事例を参考にして、逆から考えると、反対にダメだと思われるのが、夫が妻の話を聞いてあげようとして、黙ってしまうことです。妻は、夫と愛情(言葉)のやりとりをしたいと思って、夫に話し掛け続けます。そのため、夫が夫自身のことを話さず黙っている限り、妻は夫からの愛を感じることがないからです。妻は夫に言葉(愛情)を掛け足りないせいで、夫から言葉(愛情)を返してもらえないのだと感じ、その結果、話を終わらせなくなるのです。

 また、本書とはやや離れますが、他の本(文春新書の本。題名は機会が有ったら追記します)や世間でもよく言われるように、妻の話の内容が、終わりの見えない愚痴だった場合でも、妻は夫に問題解決やアドバイスを求めていないことがほとんどです。妻は、その日の出来事について、原因からさかのぼって順に話すことで、妻自身の置かれた状況を俯瞰的に見ようとしているだけです。妻が夫に話を聞いてもらうことは、夫と一緒に状況を把握することを意味します。そして、妻は、問題の解決法は妻がこれから考えるつもりで話しているのです。

 

まとめ DVへの今後の取り組みを期待して

 おそらく、DVは昔からあったはずですが、ここ最近取り上げられるようになって、問題解決しようと取り組まれていることは、本当に良いことだと思います。今後の取り組みに期待します。